Our Story
転換と物理的思考
五十嵐 政志
苦手な転換
合気道を始めてほぼ一年強。その技の深淵さと筋の悪さ故習得は遅々としたものであるが、習得補助のため物理的思考を試みている。本日はその一端を紹介する。正対し自分の手首を掴んでいる相手に対し、技により相手の体勢を崩すことで、手を取られている不利な局面を有利なものに逆転する技術として「転換」がある。私はこの技が苦手である。何故なら、体の動作として納得し難いものを感じるからである。
「転換」をメカニカルに考えたとき、そこに存在する拘束条件は掴んでいる相手の手は空間に固定されている掴まれている自分の手首と相手の手の間に滑りは存在しない
人の肩(自由度3、回転自由)や肘(自由度1、回転不自由)の構造より、上述した拘束条件下では腕そのものが動かせない。しかし指導は、「自分の肘を相手の肘に重ねる等」である。動かせないものを使ってどのように技を行うのか?この疑問が私の体の動きを頑なにし、結果として「転換」を出来ないものとしているのでは(?)と思われる。
技をかけて貰いその時の手首部を観察してみると、握った手首部は滑りを伴う回転をしていないが、自分の手首角度が変化している。その前に、体勢が崩されている。これらのことより、初動として(気持ち)相手の体軸方向への自分の体軸移動と連続した自分の軸を中心とした回転運動により、自由度のない手首(腕)を固持したことで相手の手首が否応なく傾く(擬似的に回転した)こととなり、結果として体勢の入れ替えと同時に相手の体勢を崩すことに結び付いていると傍証できるが、私の初動には何かが欠落しており矢張り出来ない。苦手な理由は「出来ない」からである。
「突き飛ばし」とニュートン力学
正対した相手をもろ手突きする「突き飛ばし」に関し考察してみる。
相手を有効に突き飛ばすことは、相手の体に与える運動エネルギーを大きくすることである。この場合エネルギーは、自分自身の体の移動がゼロとすると、相手の体重一定、加圧時間一定(加え得る加速度に上限あり)、腕の移動距離一定とすると、横軸時間、縦軸速度としたとき速度関数の作る面積に比例する。技の指導としては、等速度運動(ニュートンの第一法則;慣性の法則)であるが、確かに等速度運動であれば、相手は気づくことなく最大のエネルギー(面積最大)を受けることとなり、結果、大きく突き飛ばされる。しかし、等速度運動の場合、初速度と最終速度が一定を意味し、強引に実行すれば技の初期相手は短時間に衝撃的速度の変化を受けることとなり、もろ手突きと言うよりパンチに近いものとなり突き飛ばしに有効なエネルギーとはなり得ない。ここに技があり、イメージとしては、技を掛ける以前より既に等速度運動が始まっている・・・であるが、実際には極短時間に、速度の変化が感じ難い3次関数と等速度運動との組合せを行っているものと思われる。
相手に気づかれ難くニュートン力学を実施する。これは難解である。
受け身と音
投げにより背中から落ちる際、掌の畳を打つ音が道場に響き渡る。何故掌で畳を叩くのであろうか?観察すると、正に背中が畳表に着かんとする瞬前、大きく広げた腕が、体が落ちる速さより早く下方へ移動。この動作により腕に下向きモーメントが発生 この下向きモーメントにより、肩を中心に体側に反トルクが発生、この反トルクにより落下を続けている体に上向きの力が発生、先に畳表に到達した手は、衝撃を和らげるべく掌状にし畳を叩いた結果大きな音が発生、同時に、上向き力により落下速度が低下した体は畳との衝撃が減速され受け身となる。
この動作は自信をもって「出来る」。
以上、取り留めもなく「出来ない」言い訳の列挙になってしまったが、蝸牛の如き歩みなれど日々精進する積もりです